東京地方裁判所八王子支部 昭和40年(わ)215号 決定 1965年6月25日
少年 K・D(昭二二・四・一九生)
主文
本件を東京家庭裁判所八王子支部に移送する。
理由
本件公訴事実の要旨は、
被告人は、
第一、A、B、Cの三名と共謀の上、恰好の子女を物色して強いて姦淫しようと企て、昭和四〇年一月○○日午後四時頃都下西多摩郡○○町所在国鉄○○○○駅前において子女を物色中、帰宅途中の高校生○川○○枝(当一六年)の姿を認め、右Aにおいて、同女に対し「警察に追われていて家に金を取りに行くのにお前が一緒に行つてくれると都合がよい。」旨虚言を弄して、同女を同駅西北方約四〇〇米の同町○○○○×××番地所在○○神社附近路上に連行した上、被告人等四名で同女を取り囲み、右Aにおいて、「帰るなら帰つてみろ。お前の家に火をつけてやるぞ。警察に追われている身体だからこれ以上何をやつたつてどうということはない。」等と申し向け、更に右Bにおいて、「俺はナイフを持つているぞ。」と申し向けて同女に対し、暗に肉体関係を迫ると共に、右要求に応じなければ、同女の生命身体及び親族の財産等に如何なる危害が加えられるかも図り難い気勢を示して同女を畏怖させ、同日午後五時三〇分頃前記○○神社境内雑木林内に同女を連行し、被告人において、「やらせろ。」と申し向けて抵抗する同女を矢庭に抑向けに押し倒して押えつけ、同女着用のパンティ等を取り外して同女の身体の上に馬乗りになる等の暴行を加えて同女の反抗を抑圧し、同女を強いて姦淫した挙句、同日午後八時三〇分頃同女を都下立川市○町○丁目○○○番地○○屋旅館こと○島○ク方二階○号室に連れ込み、同室において、右A、C、Bの三名において、順次同女を強いて姦淫し
第二、A、B、D、C、E、F、G、Hの合計八名と共謀の上、前同様恰好の子女を他に連れ出して強いて姦淫しようと企て、同年同月△△日午後八時過頃埼玉県入間郡○○町○○○×番地の一工員○山○○子(当一九年)方に赴き、右D及びAの両名において、同女に対し、「スケートに行こう。」等と甘言を用いて同女を誘い出し、同町○○○×××番地附近路上に停車中のCの運転する貨客兼用自動車客席に同女を強引に乗車させ、同所南方約五・七粁の都下西多摩郡○○町大字○○○○○字○○○×××番地附近雑木林内に至つて停車した後、先ず、右Dにおいて、既に身の危険を察知して拒む同女の腕を引張る等して同女を自動車から引きずり降ろし、同所から約六〇米南方の雑木林内に同女を連行した挙句、同女の両肩を掴み、足払いをかけて同女を押し倒し、更に同女着用のスラックス、パンティ等を取り外して同女の身体の上に馬乗りになる等の暴行を加えた外、「勘弁して。家に帰して。」と懇願する同女に対し、「ぐずぐず言うな。ここまで来たらもう駄目だ。」と申し向け、暗に肉体関係を迫り、右要求に応じなければ同女の生命身体に対し如何なる危害が加えられるかも図り難い気勢を示して同女を脅迫し、同女の反抗を抑圧した上、右D、C、E、A、F、B、被告人、G、Hの九名において順次同女を強いて姦淫し
第三、同年二月○日午後六時四〇分頃都下西多摩郡○○町○○○○△△△番地附近路上において淵○明(当一八年)及び○岸○明(当一七年)の両名に対し、同人等が被告人の顔を睨みつけた旨申し向けて因縁をつけた上、同人等に対し、「お前等はどこの者か。この辺りで遊んでいる者は俺がしめているんだ。でつかいつらをしているとぶつ殺すぞ。」と申し向けて同人等を畏怖させて脅迫し
たものである。
というにあり、右各事実は本件記録に編綴してある各証拠によつて明らかである。
そこで被告人の経歴、家族関係、本件犯行の動機態様について考察してみるに、被告人は、昭和二二年四月一九日東京都立川市○○○町○丁目○○番地において、父K、母W子との間の四人兄弟の第二子として生れ、両親の許で育てられて、昭和三八年三月本籍地の中学校を卒業後、都下昭島市○○町所在○○プレス株式会社のプレス工員として就職稼働したが、同社の待遇に不満を抱き、一年足らずで同社を退職し、その後鳶職であつた父の手伝をしていたけれども、昭和三九年六月頃から再度都下北多摩郡○○町所在○○○○自動車工場に工員として就職するようになつた。
然し同工場においても、薄給に対する不満と同僚間の折合いが必らずしもよくなかつたことから昭和四〇年一月同工場を退職し、爾来定職につかず殆んど連日の如くパチンコ屋に入り浸るようになつた結果、前記の如き友人等と交際を深め、怠惰な生活を送つていた。
そして、その間の昭和三六年五月頃に強制猥褻の廉で福生署において取調べを受けたが、同年八月三一日東京家庭裁判所八王子支部において審判不開始となつた外、昭和三六年二月頃には傷害罪により、又、昭和三八年一二月頃には銃砲刀剣類等所持取締法違反により、夫々、警察の取調べを受け、前同裁判所で審判不開始となつている。
ところで被告人の処分についてであるが、本件は強姦及び脅迫という罪質自体極めて悪質な犯罪であり、しかも強姦は二回に亘つてなされたものである外、善良な市民に対し何らの理由もなく因縁をつけて脅迫したものであり、その情状誠に芳しからざるものがあるけれども、被告人は本件犯行当時未だ一七歳に過ぎず、思慮分別も定かでなかつたものと認められ、殊に○川○○枝、○山○○子の両名に対する強姦事件について、これを仔細に検討すると、共犯者であるA又はD等がその主導的地位にあり、被告人は同人等の行動に附和雷同して右各犯行を累行したものであることが窺われ、かかる点からすれば、被告人には物事を自主的に判断する能力に欠けていたものと考えられる。
してみれば、被告人に対しては自主性を与え、自らの力で考え、自ら実行するように監護教育する必要があり、又その可能性も十分存するものと認められるから、画一的処遇に陥り易い一般行刑機関よりも、個別処遇に習熟した少年保護機関に被告人の性格の矯正を委ねる方が賢明であると思料される。
しかも、被告人にはこれまで前科もなく、又、家庭裁判所における保護処分を受けた経歴もない許りでなく、両親は被告人の保護に万全を期する旨誓い、被告人の将来に格別の配慮をなし、被告人も亦、自己の前罪を悔い更生を誓つているのであるから、今更被告人を刑事処分に付するのは妥当を欠くものと思われる。
よつて被告人を保護処分に付するのを相当と認め、少年法第五五条を適用して、本件を東京家庭裁判所八王子支部に移送することとする。
以上の理由によつて、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 樋口和博 裁判官 中村憲一郎 裁判官 泉山禎治)
参考
受移送家裁決定(東京家裁八王子支部昭四〇(少)一九八七号昭四〇・七・七決定報告四号)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(犯罪事実)
昭和四〇年六月二五日付東京地方裁判所八王子支部の少年に対する移送決定書理由中公訴事実の要旨として記載してある事実の記載を引用する。
この事実は刑法一七七条、二二二条一項に該当し、少年に対しては収容保護の必要があると認めるから、少年法第二四条第一項第三号少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 村崎満)